PEEK INSIDE THE BOOK

書籍の中身を一部公開。序文やページデザインをお楽しみください。




序文

—-------
科学者であろうがなかろうが、この地球の美しさと不思議のなかに住まう者は、決して一人きりになることはないし、人生にくたびれることもないのです。日々のなかにどんな悩みや、悔があろうと、その思考は、内なる充足と、生きることの新鮮な感動に至る道を、やがて見つけることができるはずです。

地球の美しさをよく観察し、深く思いをめぐらせていくとき、いつまでも尽きることがない力が湧き出してきます。鳥の渡りや潮の満ち引き、春を待つ蕾の姿には、それ自体の美しさだけでなく、象徴的な美しさがあり得ます。夜はやがて明け、冬のあとにはまた春が来る――くり返す自然の反復には、人を果てなく癒す力があります。

レイチェル・カーソン『Sense of Wonder』(新訳)森田真生訳[筑摩書房]より

—-------


八ヶ岳の麓、長野県・富士見町。

豊かな自然に囲まれたこの町で暮らすようになってから、朝に見る山の稜線、夕暮れに染まる雲、凛とした空気、澄んだ水、そして足もとに繁る無数の草花。その一つひとつが、自分の心身を癒し、日々の活力を与えてくれることに気づいた。

この地へ移住する前に読んだレイチェル・カーソンの『Sense of Wonder』に書かれていたことは、まさに本当だったのだと、今あらためて実感している。

そしてもう一つ。

この地で出会った多様な人々とのつながりもまた、私に新たな力を与えてくれる。互いの存在が、それぞれを前へと進ませる原動力になっている。

「富士見 森のオフィス」という名のこのコワーキングスペースが誕生して以来、この場所を媒介として生まれてきた人と人の出会い、そしてそこから芽生えたさまざまな取り組みは、まるで相互に関わり合い、有機的なつながりを形成する生態系のように感じられる。

種が土に落ち、芽を出し、草木が生い茂り、そこに動植物が集い、やがて森となる。そしてその森は、もともとあった植生と交じり合いながら、実をつけ、土に還り、また誰かの糧となっていく。

この場所が生まれて10年。森のオフィスにも、さまざまな草花が生え、互いに影響を与え、支え合いながら実を結んできた。私たちはこの生態系の土壌を耕し、そこに集う人々が自らのリズムで活動できるよう環境を整えながら、その成長を見守ってきた。

これまで「富士見 森のオフィス」の歩みを支えてきた仲間たちとの対話を通じて、この生態系が育んできたもの、そしてそこに宿る価値とは何か?を、あらためて見つめ直したいと思う。

津田賀央


対談インタビュー

ビデオグラファーとして独立した10年前、富士見町に暮らしと仕事の拠点を構えた栗原さん。マスメディアの現場を離れ、常に「オルタナティブであること」に軸を持ち続けてきた栗原さんが、森のオフィスと出会い、関わりを深める中で見えてきた景色とは。会員と運営代表という枠を超え、「ヤツメディア」を共に立ち上げた同志でもあるRoute Design代表の津田が聞きました。


映像ディレクターの澤井理恵さんは、2016年に富士見町に移住。まだ出来て間もない森のオフィスに通い、そこで多くの人と出会いながら仕事に励んできた。

ほとんど同時期に移住して、地域おこし協力隊として森のオフィスの運営に関わっていたデザイナーの松田さんを聞き手に、当時の記憶から現在に至るまで、この場所とともに歩んだ10年を振り返ってもらいました。


project 01: ignite!

「アイデアや企画を出しても『儲かるの?』という声に潰されてしまう。エンジニアとしての火が消えそう」森のオフィスに来てくれた地元メーカーのエンジニアから溢れたそんな言葉から「ignite!」は始まった。